リソースの分離とアクセス制御

[更新日:2025年09月30日]

リソース分離の基本戦略

リソースの分離は、クラウド環境におけるリソースを整理する上で最も重要な検討事項の一つです。適切なリソース分離により、セキュリティの向上、運用効率の改善、コスト管理の最適化が実現できます。

さくらのクラウドでは、プロジェクトやネットワークといった多彩な機能を用いて、企業のビジネスニーズや組織構造に合わせたリソースの論理的な整理とアクセス制御を実現できます。たとえば、各部署で利用するリソースを個別のプロジェクトに分離することで、部署間での誤操作や設定の競合を防止できます。また、ネットワーク層での分離をネットワーク機能で実現することで、セキュリティ境界を明確に定義し、不正アクセスのリスクを最小化できます。

基本戦略の構成要素は以下のとおりです。

  • 論理分離:プロジェクトや独立させたネットワークによる論理的なリソース分離

  • 物理分離:異なるゾーンやリージョンによる物理的な分離

  • ネットワーク分離:サブネットやパケットフィルタによる通信制御

  • アクセス分離:アクセスレベル機能による権限ベースの操作制御

  • データ分離:機密度に応じたデータの階層的な分離

環境別プロジェクト分離

本番環境と非本番環境(開発、テスト、ステージング)のワークロードを個別のプロジェクトに厳格に分離します。この分離により、開発チームが誤って本番環境に影響を与える操作を実行するリスクを根本的に排除できます。プロジェクト単位の分離は、単なる誤操作防止だけでなく、設定干渉や依存関係の混乱を防ぎ、アクセス制御を厳格に分けるためのセキュリティ対策としても極めて有効です。

プロジェクトごとにAPIキー、SSH鍵、ロール(操作権限)を個別に設定できるため、最小権限の原則に基づいた細かな権限管理が実現できます。これにより、各環境での作業に必要な最小限の権限のみを付与し、セキュリティリスクを大幅に軽減できます。

環境別分離の実装要素は以下のとおりです。

  • 開発環境分離:開発作業専用のリソース環境

  • テスト環境分離:品質確認専用の独立したテスト環境

  • ステージング環境分離:本番環境と同等の検証環境

  • 本番環境分離:商用サービス提供のための本番環境

  • 災害復旧環境分離:BCP対応のための復旧専用環境

階層的組織構造の実装

階層的な組織構造を正確に反映するために、サブフォルダやプロジェクトグループを戦略的に作成し、各レベルのプロジェクトに対して個別のアクセス制御ポリシーを適用します。階層的な構造で複数プロジェクトを管理する際は、管理者用プロジェクトを上位に設けることを強く推奨します。この管理プロジェクトでは、ガバナンスポリシー、監査ログ、セキュリティ基準を一元管理し、組織全体での統一性を保つことができます。

階層構造の実装要素は以下のとおりです。

  • 部門別階層:組織図に対応した部門別のリソース管理

  • プロジェクト別階層:事業プロジェクト単位でのリソース分離

  • 地域別階層:地理的な拠点に応じたリソース配置

  • 機能別階層:ITサービス機能に基づいたリソース分類

  • 権限継承:上位階層から下位階層への権限継承管理

タグによるコスト管理

ビジネスニーズと運用要件に基づいて、リソースに意味のあるタグを体系的に付与し、整理と識別を容易にします。組織内でタグ命名規則を明確に定め、文書化することで、属人的な運用を避け、誰でも理解できる一貫したリソース管理を実現できます。

主要なタグ分類の例は以下のとおりです。

  • 環境種別:Env:Production、Env:Development、Env:Test

  • 所有部署:Dept:IT、Dept:Sales、Dept:Marketing

  • コスト配分:CostCenter:CC001、Project:ProjectA

  • 重要度レベル:Criticality:High、Criticality:Medium、Criticality:Low

タグは、リソースごとのコスト配分や予算管理においても極めて重要な役割を果たします。課金明細のCSV出力にタグ情報が含まれるため、部署やプロジェクト単位での正確なコスト集計が可能です。これにより、IT予算の透明性が向上し、各部署での適切な予算管理とコスト最適化の取り組みが促進されます。

タグ管理の構成要素は以下のとおりです。

  • 標準タグ体系:組織統一のタグ命名規則と分類体系

  • 自動タグ付与:リソース作成時の自動的なタグ適用

  • タグ継承:親リソースから子リソースへのタグ継承

  • タグ監査:タグ付与状況の定期的な確認と修正

  • 特殊タグ:種類や役割に応じたグループ分け

さくらのクラウドでは、サーバやディスクなどのリソースに付与することで、種類や役割に応じて簡単にグループ分けできる「タグ機能」を提供しています。また、特定の文字列をタグとして付与することで、そのリソースに特別な機能を持たせる「特殊タグ」を提供しています。

ロールベースアクセス制御の実施

最小権限の原則

各グループのユーザに対して、業務遂行に必要不可欠なリソースのみへのアクセスを、ユーザグループごとにプロジェクト単位の権限設定で厳格に管理します。この最小権限の原則は、セキュリティインシデントの影響範囲を最小化し、内部脅威への対策としても有効です。

ターゲットリソースと必要なアクセス権限に関して、可能な限り粒度の細かいポリシーを記述します。一般的な読み取り権限や書き込み権限だけでなく、可能であれば特定のアクションや条件に基づいた詳細な制御を行うことで、より安全な運用が可能になります。

最小権限原則の実装要素は以下のとおりです。

  • 職務分離:異なる職務間での権限の明確な分離

  • 段階的権限:経験レベルに応じた段階的な権限付与

  • 時限権限:作業期間に限定した一時的な権限付与

  • 条件付き権限:特定条件下でのみ有効な権限設定

  • 権限監査:付与された権限の定期的な見直しと最適化

専門グループの管理

ネットワーク管理やボリューム管理など、デプロイされたワークロードで共通して行われるタスクを実行するための専門的な権限を持つグループを作成し、適切な管理者ユーザをこれらのグループに割り当てます。

グループ名

主な権限

管理対象

詳細責任

ネットワーク管理

ネットワーク設定、ファイアウォール管理

スイッチ、ルータ、ACL

プライベートネットワーク設計、サブネット管理、ルーティング設定

ストレージ管理

ボリューム作成、容量管理、バックアップ

ディスク、スナップショット

データ保護、容量計画、パフォーマンス監視

セキュリティ管理

IAMポリシー、監査ログ管理

権限設定、ログ監視

セキュリティポリシー、脅威対応、監査支援

システム管理

サーバ構築、基本設定

インスタンス、OS設定

システム構成、パフォーマンス調整、障害対応

データベース管理

DB設定、性能調整、バックアップ

DBインスタンス、設定

クエリ最適化、レプリケーション、復旧手順

さくらのクラウドのアクセスレベル機能を最大限活用することで、従来のシンプルなロールベースアクセス制御を超えた、より柔軟かつ安全なアクセス制御を実現できます。アクセスレベルで制御した操作は、詳細な操作ログや監査ログと合わせて活用することで、セキュリティインシデント時の迅速なトレースやコンプライアンス遵守に大きく寄与します。

自動化スクリプトやCI/CDツールからリソースにアクセスする場合でも、さくらのクラウドのアクセスレベル機能を活用し、スクリプト専用に必要最小限の権限を慎重に設定することで、自動化の利便性を損なわずに安全な運用を実現できます。

専門グループ管理の構成要素は以下のとおりです。

  • 専門性重視:技術領域に特化した専門グループの設置

  • クロストレーニング:複数グループ間での知識・技能の共有

  • 権限継承:グループメンバーシップによる権限の自動継承

  • 責任分担:明確な責任範囲と権限の対応関係

  • スキル管理:グループメンバーのスキルレベル管理

認証情報のセキュア管理

シークレットマネージャによる機密情報管理

クラウドサービスと接続するための「APIキー」、アプリケーションからデータベースへ接続する際の「パスワード」、通信を保護する証明書や「アクセストークン」といった機密情報が、システムの大規模化やセキュリティ対策の厳格化によって増大しているためです。

「シークレット」とは、このようなアプリケーションやシステム連携などで必要になる機密情報のことです。これらシークレットを、システム構築のためにアプリケーションコードや設定ファイルに直接埋め込むと漏洩リスクが高まります。

インスタンスがさくらのクラウドAPIを呼び出すために認証を行う場合、インスタンス上に平文のユーザ認証情報を保存することは絶対に避けてください。これは重大なセキュリティリスクとなり、認証情報の漏洩や不正使用につながる可能性があります。

そのため、安全に保管・管理し、不正アクセスを防ぐ「シークレット管理」を安全に管理することを強く推奨します。シークレット管理を導入することで、シークレットの安全な保管と暗号化による「セキュリティ強化」、「自動ローテーション」、ログ・監査対応による「コンプライアンス強化」などが期待できます。

KMSによる鍵管理

認証情報や機密情報などを管理するとき必須となるのが「暗号化」です。暗号化は、「GDPR」や個人情報保護法などの規制では暗号化が必須条件となる場合も多く、企業が安心してデータを利活用するため欠かせない基盤技術といえます。

「KMS」(Key Management Service)は、クラウド上で暗号鍵の生成・保存・利用を安全に実現するサービスです。KMSを利用することで、暗号鍵や認証トークンを厳格なアクセス制御のもとで安全に保護し、必要な時のみ復号化してアクセスできる仕組みを構築できます。

KMSでは、鍵の自動ローテーション、削除予約など、様々なセキュリティポリシーを適用できます。これらの機能により、仮に鍵が漏洩した場合でも影響を最小限に抑えることができます。

一般的なKMS管理の実装要素は以下のとおりです。

  • 階層的鍵管理:マスターキーとデータキーの階層構造

  • 自動ローテーション:定期的な暗号鍵の自動更新

  • アクセス制御:鍵へのアクセス権限の厳格な管理

  • 監査ログ:鍵の使用状況の詳細な記録

  • データ分散管理:鍵の冗長化保管

VMインスタンスへのログインアクセス強化

VMインスタンスへのログインアクセスにおいて、セキュアな方法のみを使用するように徹底してください。特にエンタープライズ向けのログイン管理を行う場合、パスワード認証を完全に無効化し、より安全な鍵ベースのログインに統一することを強く推奨します。

基本的なセキュリティ強化として、ルートユーザやスーパーユーザアカウントのログインを完全に無効にし、日常的な管理作業には権限を制限した専用アカウントを使用してください。特権が必要な場合は、sudo機能を通じて一時的に権限昇格を行う仕組みを構築します。

SSHキー認証のみを使用するように厳格に設定し、パスワード認証やその他の脆弱な認証方式は完全に無効化してください。SSH鍵は十分な長さ(RSA 4096bit以上、またはEd25519)を使用し、定期的な更新を実施します。

ログインアクセス強化の構成要素は以下のとおりです。

  • 鍵ベース認証:SSH公開鍵認証による強固なログイン

  • 多要素認証:SSH鍵に加えた追加認証要素の実装

  • セッション監視:ログインセッションのリアルタイム監視

  • アクセス制限:送信元IPアドレスによるアクセス制限

  • 監査ログ:すべてのログイン試行の詳細な記録

必須のセキュリティ設定として、パスワード認証の完全無効化、ルートユーザアカウントのログイン無効化、SSHキー認証のみの使用、多要素認証(MFA)の実装、不要なサービスの無効化などがあります。

ネットワーク層でのリソース隔離

さくらのクラウドネットワーク機能

さくらのクラウドの「スイッチ」は、サーバ間でローカル通信を可能にする高性能な仮想ネットワーク機器として機能します。「ルータ+スイッチ」は、インターネット側に接続する専用ネットワーク(グローバルIPアドレス)とスイッチの両方を統合的に管理する高度な機能です。

機能

接続性

用途

主な利用場面

セキュリティ特性

スイッチ

プライベートのみ

内部通信専用

データベース、内部管理システム

外部からの直接アクセス不可

ルータ+スイッチ

インターネット接続

外部公開用

Webサーバ、ロードバランサ

ネットワーク機能の構成要素は以下のとおりです。

  • 仮想スイッチ:L2レベルでの柔軟なネットワーク分離

  • ルータ機能:L3ルーティングと NAT機能による接続制御

  • VLAN対応:複数の論理ネットワークの同時運用

  • 帯域制御:ネットワーク帯域の制限と優先制御

  • 冗長化対応:複数ネットワーク経路による可用性確保

パケットフィルタによる高度な制御

「パケットフィルタ」機能を活用することで、サーバに搭載される仮想NICに着信するパケットを、指定した詳細な条件でフィルタリングできます。この機能の最大の利点は、サーバ内のファイアウォールやiptablesなどの設定に依存せず、クラウドコントロールパネル上で直感的かつ簡単にパケット制限を行えることです。

複数のフィルタルールを組み合わせることで、複雑なセキュリティポリシーも効果的に実装できます。たとえば、時間帯に応じたアクセス制限や、送信元の信頼度に基づく段階的な制御なども可能です。

パケットフィルタの実装要素は以下のとおりです。

  • ステートフル検査:接続状態を考慮した高度なパケット検査

  • プロトコル制御:TCP/UDP/ICMPなど各プロトコルレベルでの制御

  • ポート制御:特定ポートへのアクセス制限

  • 時間制御:時間帯に基づいたアクセス制限

  • ログ機能:フィルタリング状況の詳細な記録

セグメント分離によるリスク軽減

インターネット公開が必要なWebサーバやAPIゲートウェイと、非公開の内部サーバ(データベース、ファイルサーバ、内部管理システム)は異なるスイッチに明確に配置し、最小限の通信ポリシーで接続することで、セグメント間のリスクを効果的に分離します。

この分離により、外部から侵入された場合でも、攻撃者が内部システムに到達することを困難にし、被害の拡大を防ぐことができます。各セグメント間の通信は、必要最小限のプロトコルとポートのみを許可し、定期的な通信パターンの監視と異常検出を実施することで、侵入の早期発見も可能になります。

接続マップ表示機能では、選択中のゾーン内に作成されたサーバ、アプライアンス、スイッチの接続状況を直感的でグラフィカルな形式で確認することが可能です。この可視化により、複雑なネットワーク構成も一目で理解でき、設定ミスの早期発見に非常に便利です。

セグメント分離の構成要素は以下のとおりです。

  • DMZ設計:外部公開用セグメントの適切な設計

  • 内部セグメント:機密システム用の高度に保護されたセグメント

  • 管理セグメント:システム管理専用の独立したセグメント

  • 通信制御:セグメント間通信の最小限制御

  • 監視強化:セグメント跨ぎ通信の厳重な監視

高可用性と災害対策

地理的冗長性を確保するため、異なるゾーンやリージョン間にサーバとネットワーク機能を分散配置し、自然災害や大規模障害に対する復旧体制を構築することで、堅牢な災害対策「DR:Disaster Recovery」(ディザスタリカバリ)やマルチリージョン対応が可能です。

各拠点間のネットワーク接続には、プライマリとセカンダリの複数経路を確保し、一方の経路に障害が発生した場合の自動フェイルオーバー機能も実装することで、事業継続性を大幅に向上させることができます。定期的な災害復旧訓練により、実際の災害時に迅速かつ確実な復旧作業が実施できるよう、手順の検証と改善を継続的に行うことが重要です。

高可用性と災害対策の実装要素は以下のとおりです。

  • マルチゾーン配置:複数のゾーンでの冗長配置

  • 地理的分散:異なるリージョン間でのデータ・システムレプリケーション

  • 自動フェイルオーバー:障害検知時の自動的なシステム切り替え

  • データ同期:リアルタイムでのデータ整合性確保

  • 復旧手順:標準化された災害復旧プロセス

Infrastructure as Codeによる管理

ネットワーク構成の管理には、IaC(Infrastructure as Code)の手法を全面的に採用し、設定の変更履歴、構成の再現性、環境間の一貫性を高いレベルで維持することが強く推奨されます。

IaC(Infrastructure as Code)は、サーバやネットワークなどのITインフラをコードで定義し、自動的に構築・管理する手法です。

IaCにより、開発、テスト、本番環境間での設定の差異を排除し、人的ミスによる設定間違いのリスクを大幅に軽減できます。また、バージョン管理システムとの統合により、変更の追跡と承認プロセスも自動化できます。テンプレート化された構成により、新しい環境の構築時間を大幅に短縮し、標準化されたセキュリティ設定の適用も自動化できます。

IaC管理の構成要素は以下のとおりです。

  • テンプレート管理:再利用可能な構成テンプレートの作成

  • バージョン管理:構成変更の履歴管理と追跡

  • 自動デプロイ:コードベースの自動的な環境構築

  • 設定検証:構成の妥当性チェックと自動テスト

  • ドリフト検知:実環境と定義の差異検出

セキュリティ監視と継続的改善

クラウド環境におけるセキュリティの維持には、包括的なログ管理とリアルタイム監視が不可欠です。さくらのクラウドの各種ログ機能を最大限に活用し、操作ログ、アクセスログ、システムログを統合的に収集・分析することで、セキュリティインシデントの早期発見と迅速な対応が可能になります。

SIEM(Security Information and Event Management)システムとの統合により、複数のログソースからの情報を相関分析し、単独では検出困難な高度な攻撃パターンや異常な動作を特定できます。機械学習を活用した異常検知機能により、従来のルールベース検出では発見できない未知の脅威にも対応できます。

定期的な脆弱性スキャンとペネトレーションテストにより、システムの安全性を継続的に評価し、新たに発見された脆弱性に迅速に対応する体制を整備します。CVE(Common Vulnerabilities and Exposures)データベースとの連携により、新しい脆弱性情報を即座に取得し、影響範囲の評価と対策の優先順位付けを自動化できます。

セキュリティ監視の構成要素は以下のとおりです。

  • 統合ログ管理:複数システムからのログの一元集約

  • リアルタイム分析:即座の脅威検知と自動対応

  • 相関分析:複数イベントの関連性分析による高度な脅威検知

  • 脆弱性管理:継続的な脆弱性スキャンと対策管理

  • インシデント対応:自動化されたセキュリティインシデント対応