冗長化
[更新:2026年4月3日]
VMware環境では、vSphere HAやvSphere FTによるホストレベルの冗長化、さらにNICチーミングによるネットワーク冗長化など、様々なレイヤーで可用性を確保する構成が一般的です。さくらのクラウドへの移行後は、クラウド基盤側で提供される冗長化機能と、ロードバランサーやオートスケールなどのサービスを組み合わせることで、同等以上の可用性を実現できます。
ホストレベルの冗長化(vSphere HA/vSphere FT)
VMware vSphereでは、ESXiホストの障害に備えて以下の機能が提供されています。
機能 |
概要 |
RPO |
RTO |
|---|---|---|---|
vSphere HA |
ホスト障害時に別ホストで仮想マシンを自動再起動 |
最終バックアップ時点 |
数分〜 |
vSphere FT |
仮想マシンをリアルタイムで別ホストにミラーリング |
ゼロ |
ほぼゼロ |
さくらのクラウドでの対応
さくらのクラウドでは、基盤側でホストの冗長化や障害時の自動復旧が行われます。ただし、vSphere FTのようなリアルタイムミラーリングに相当する機能は提供されていないため、アプリケーションレイヤーでの冗長化設計が重要となります。
以下のサービスを活用することで、vSphere HA/FTと同等以上の可用性を実現できます。
ロードバランサーによる冗長化
複数のサーバにトラフィックを分散し、一部のサーバに障害が発生しても継続してサービスを提供できる構成を実現します。さくらのクラウドでは、要件に応じて3種類のロードバランサーから選択できます。
ロードバランサーの種類と特徴
項目 |
ロードバランサー |
エンハンスドロードバランサー |
GSLB |
Netwiser |
|---|---|---|---|---|
負荷分散レイヤー |
L4 |
L4/L7 |
DNS |
L4/L7 |
対応プロトコル |
TCP |
HTTP/HTTPS/WebSocket/TCP |
DNS |
L4/L7 |
SSL終端 |
× |
◎ |
◎ |
|
ヘルスチェック |
HTTP/HTTPS/TCP/Ping |
TCP/HTTP |
HTTP/HTTPS/PING/TCP |
ICMP/TCP/UDP/HTTP/SSL/DNS他 |
配置場所 |
スイッチ内 |
グローバル |
グローバル |
スイッチ内 |
複数リージョン対応 |
× |
◯(エニーキャスト) |
◎ |
× |
料金体系 |
固定 |
固定 |
固定 |
固定 |
ロードバランサー(L4)
スイッチに接続して利用するL4ロードバランサーです。シンプルなTCP/UDPの負荷分散に適しています。
主な特徴
最大20の仮想IPアドレス(VIP)を設定可能
ロードバランサ1台あたり最大40台の実サーバを登録可能
最小コネクション数(least connection)による分散
ソーリーサーバ(全実サーバダウン時の振り先)設定が可能
適しているケース
SSL終端が不要なL4レベルの負荷分散
コストを抑えつつ基本的な冗長化を実現したい場合
単一リージョン内での冗長化
参考リンク
エンハンスドロードバランサー
L4/L7に対応した高機能なロードバランサーです。SSL終端やHTTPヘッダーに基づく振り分けなど、より柔軟な負荷分散が可能です。複数のリージョン間や、専用サーバPhy、さくらのVPSとも振り分けが可能です。
主な特徴
機能 |
説明 |
|---|---|
SSL/TLS終端 |
Let’s Encrypt自動更新、持ち込み証明書に対応 |
L7ルーティング |
URLパス、ホストヘッダーに基づく振り分け |
高度なヘルスチェック |
HTTP/HTTPSレスポンスコード、レスポンスボディのチェック |
セッション維持 |
送信元IP、Cookieベースのスティッキーセッション |
HTTP/2対応 |
クライアント-LB間でHTTP/2通信が可能 |
gzip圧縮 |
レスポンスの自動圧縮 |
適しているケース
SSL/TLS終端をロードバランサーで行いたい場合
URLパスやホストヘッダーに基づく振り分けが必要な場合
Let’s Encryptによる証明書の自動更新を利用したい場合
HTTP/2やgzip圧縮でパフォーマンスを向上させたい場合
参考リンク - エンハンスドロードバランサー | さくらのクラウド ドキュメント
GSLB(広域負荷分散)
DNSベースで複数リージョンやサイトへの負荷分散を実現します。災害対策(DR)やグローバル展開時のレイテンシ最適化に有効です。リージョン間だけでなく、さくらのVPS、専用サーバPhyとも振り分けがかの奥です。
主な特徴
機能 |
説明 |
|---|---|
DNS負荷分散 |
複数のIPアドレスをDNSレスポンスで振り分け |
ヘルスチェック |
実サーバの死活監視、異常時は自動的にDNSから除外 |
重み付け |
サーバごとに振り分け比率を設定可能 |
ソーリーサーバ |
全サーバダウン時の振り先を設定可能 |
適しているケース
複数リージョンでの冗長化(DR対策)
リージョン障害時の自動フェイルオーバー
さくらのクラウド以外のサーバ(オンプレミス、他社クラウド)も含めた負荷分散
参考リンク
NetWiser
詳細は公式サイトをご参照ください。
vSphere HA/FTからの移行パターン
移行元の構成 |
推奨移行先 |
備考 |
|---|---|---|
vSphere HA(単一サーバ) |
基盤側冗長化 + 自動バックアップ |
基盤側で障害対応されるため最小構成でも一定の可用性あり |
vSphere HA(複数サーバ) |
ロードバランサー + 複数サーバ |
アプリケーションレイヤーでの冗長化 |
vSphere FT |
エンハンスドLB + 複数サーバ + 自動フェイルオーバー |
リアルタイムミラーリングは不可のため、アプリ側での対応が必要 |
vSphere HA + SRM(DR) |
GSLB + マルチリージョン構成 |
リージョン間でのDR構成 |
水平オートスケール + ロードバランサー
負荷に応じてサーバ台数を自動的に増減させることで、可用性とコスト効率を両立する構成です。さくらのクラウドでは、オートスケール機能とロードバランサーを組み合わせることで実現できます。
オートスケールの仕組み(しきい値は参考数値)
[監視] → CPU使用率が80%を超過
↓
[トリガー発火] → サーバ追加指示
↓
[サーバ作成] → アーカイブからサーバを自動作成
↓
[LB登録] → ロードバランサーに自動追加
↓
[負荷分散開始]
オートスケール設定の主な項目
項目 |
説明 |
|---|---|
トリガー条件 |
CPU使用率、トラフィック量の閾値 |
スケールアウト |
サーバを追加する条件と追加台数 |
スケールイン |
サーバを削除する条件と削除台数 |
クールダウン |
スケール動作後、次の動作まで待機する時間 |
最小/最大台数 |
サーバ台数の下限と上限 |
オートスケール構成のベストプラクティス
1. ステートレスなアプリケーション設計
オートスケールを効果的に活用するためには、各サーバがステートレス(状態を持たない)であることが重要です。セッション情報は外部(Redis、データベースなど)に保存し、どのサーバでもリクエストを処理できるようにしてください。
2. 適切なベースイメージの準備
スケールアウト時に使用するアーカイブ(ベースイメージ)は、最新のアプリケーションコードとミドルウェア設定を含めて定期的に更新してください。
3. ヘルスチェックの適切な設定
新規作成されたサーバがロードバランサーに追加される前に、アプリケーションが正常に起動していることを確認できるよう、ヘルスチェックを適切に設定してください。
4. クールダウン時間の調整
短すぎるクールダウン時間は、サーバの頻繁な追加・削除(フラッピング)を引き起こします。アプリケーションの起動時間やトラフィックパターンを考慮して適切な値を設定してください。
オートスケールが適しているケース
トラフィック量の変動が大きいWebサービス
キャンペーンやイベント時に一時的にアクセスが増加するサイト
夜間・休日のトラフィック減少時にコストを削減したい場合
予測困難な負荷増加に自動対応したい場合
参考リンク
NICチーミング
VMware環境では、ESXiホストの物理NICをチーミング(ボンディング)することで、ネットワークの冗長化と帯域拡張を実現するのが一般的です。
さくらのクラウドでの対応
さくらのクラウドでは、基盤側でネットワークの冗長化が行われているため、ユーザー側でNICチーミングを設定する必要はありません。
基盤側で提供される冗長化
レイヤー |
冗長化内容 |
|---|---|
物理ネットワーク |
スイッチ、ルータの冗長構成 |
物理サーバ |
NICの冗長構成 |
ストレージ |
ストレージネットワークの冗長構成 |
これにより、VMware環境でNICチーミングにより実現していたネットワーク冗長化は、さくらのクラウドでは意識することなく享受できます。
明示的な冗長化/帯域拡張が必要なら専用サーバPHY/ハウジングを検討
以下のような要件がある場合は、さくらのクラウドではなく専用サーバPHYまたはハウジングサービスの利用を検討してください。
要件 |
説明 |
|---|---|
明示的なNIC冗長化 |
ユーザー側で冗長化構成を完全にコントロールしたい |
高帯域幅の確保 |
20Gbps以上の帯域を専有したい(ローカル回線のみ) |
特殊なネットワーク構成 |
マルチホーミング、BGP接続など |
ハードウェア専有 |
物理サーバを専有し、他テナントとの共有を避けたい |
専用サーバPHYが適しているケース
専用サーバPHYの帯域の仕様はグローバル側、ローカル側とサーバプランにより異なります。サーバプランと回線による帯域の組み合わせは公式サイトを参照してください。
またサーバ搭載メモりおよび通信の方向性においても仕様が異なります。制限はサーバからインターネットへの送信方向(Outbound)にかかります。サーバへの受信方向であるInboundへの制限はありません。
サーバ搭載メモリ量 |
帯域制限値 |
|---|---|
32GB未満 |
1.0Gbps |
32GB以上 128GB未満 |
2.0Gbps |
128GB以上 224GB未満 |
5.0Gbps |
224GB以上 |
10.0Gbps |
専用サーバPHYとクラウドのハイブリッド構成
高いネットワーク要件が必要なサーバのみ専用サーバPHYに配置し、その他のサーバはさくらのクラウドに配置するハイブリッド構成も可能です。専用サーバPHYとさくらのクラウドは、ブリッジ接続により同一L2ネットワークとして構成できます。
参考リンク
冗長化構成の選定ガイド
移行後の冗長化構成は、以下の表を参考に選定してください。
サービス可用性要件別の推奨構成
可用性要件 |
推奨構成 |
|---|---|
標準(一般的なWebサイト) |
単一サーバ + 自動バックアップ |
高(業務システム) |
ロードバランサー + 複数サーバ |
非常に高(ミッションクリティカル) |
エンハンスドLB + 複数サーバ + マルチゾーン |
DR対応(災害対策) |
GSLB + マルチリージョン |
VMware機能からの移行マッピング
VMware機能 |
さくらのクラウドでの実現方法 |
|---|---|
vSphere HA |
ロードバランサー + 複数サーバ構成 |
vSphere FT |
エンハンスドLB + 複数サーバ + アプリケーション側での対応 |
vSphere DRS |
オートスケール |
NICチーミング(冗長化) |
基盤側で対応(ユーザー設定不要) |
NICチーミング(帯域拡張) |
専用サーバPHY |
vCenter SRM |
GSLB + マルチリージョン + アーカイブのリージョン間コピー |
冗長化設計のチェックリスト
移行プロジェクトでは、以下の項目を確認して冗長化設計を行ってください。
☐ サービスの可用性要件(SLA)は明確になっているか
☐ 現行環境のvSphere HA/FT設定の棚卸しは完了しているか
☐ 単一障害点(SPOF)の洗い出しは済んでいるか
☐ アプリケーションはステートレス化が可能か(オートスケール利用時)
☐ セッション管理方式は検討されているか
☐ データベースの冗長化方式は決定しているか
☐ DR要件(RPO/RTO)は定義されているか
☐ フェイルオーバーの自動化/手動化の方針は決まっているか
☐ 冗長化構成のテスト計画は策定されているか
次章「アクションスケジュールの典型例」では、VMware環境からさくらのクラウドへの移行プロジェクトにおける標準的なスケジュールと、各フェーズで実施すべきタスクについて解説します。